大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)2262号 判決
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〔判決理由〕(2) 逸失利益 一八五、〇八八円
<証拠>によると、つぎの事実が認められる。
(イ) 原告北谷は前記のとおり事故当事二七才であつたが、昭和四一年四月大阪羽車販売株式会社に入社し、もつぱらコーヒやジュース等の飲料水を小売店へ配達する自動車運転手として働き、右事故発生前三ケ月間における平均月給は三〇、三七四円であつた。
(ロ) 本件事故による前記受傷のため事故後翌四二年一月三〇日まで欠勤し、昭和四一年八月分三、五三〇円を除くその間の給与支給を受けることができず、復職後も左上肢約四センチメートル短縮、左肩関節運動制限(前挙約九〇度)の後遺症のため自動車運転に従事することが非常に困難であるうえ重量物の運搬もできなくなつたので、もつぱら掃除や容器の片付け等の雑役的仕事をしながら、昭和四二年二月は二四、〇〇〇円、その後は毎月三二、二七五円の給料を支給されていた。
(ハ) 右大阪羽車販売株式会社は昭和四二年一〇月に倒産したが、株式会社羽車がその営業を受け継いでおり、原告北谷は従前どおり雑役的仕事に従事している。
以上認定の事実にもとづき原告北谷の逸失利益を算定するとつぎのようになる。
(イ) 昭和四一年八月から翌四二年二月まで一八五、〇八八円
三〇、三七四円×七−(三、五三〇円+二四、〇〇〇円)
(ロ) 昭和四二年三月以後の分は認められない。
原告北谷は前記後遺障害の程度からして労働能力を従前の二七パーセント失つたので、一ケ月八、二〇〇円の割合による損害を受ける旨主張するが、前認定のとおり同原告は昭和四二年三月以後において従前の平均月給以上の給料を得ているのであるから、その後遺障害によつて労働能力が減少したとしても、そのため現在のところ格別の収入減を生じていないといわなければならない。もつとも右の程度の後遺障害から判断すると、同原告は将来の収入面においてかなりの不利益を受けるものと推認しうるけれども、証人中野靖久の証言によるもその数額を認定しがたく、他にこの点に関する的確な証拠はないので、右のような不利益は後記精神的損害算定上の一資料とするほかはない(労働能力が減少しても具体的に財産上の損害が発生していないとされた事例として、最判昭和四二年一一月一〇日、判例時報五〇五号三五ページ以下参照)。(編註、本誌二一五号九四頁掲載判決)
(3) 精神的損害一、五〇〇、〇〇〇円
前記受傷部位・程度、後遺症、将来の収入面に対する不安その他諸般の事情をしんしやくすると、原告北谷が本件事故により受けた精神的苦痛はきわめて深刻なものであるというべく、その損害額は同原告主張にかかる八〇〇、〇〇〇円をはるかにこえるものといわなければならない。
ところで、精神的損害額に関する当事者の主張は事実そのものの主張ではなく、いわば精神的損害についての当事者の評価の主張というべきものであるから、裁判所は当事者の主張額に拘束されず、場合によつてはこれをこえる額を認定することができると解すべく、また身体傷害という不法行為は「身体」という一個の法益を侵害するものであるから、これより生ずる損害賠償請求権も一個と解するのが相当である。とすると、本件において精神的損害額を原告北谷の主張以上に認定しても、認容総額において同原告の請求額をこえないかぎり、民訴法一八六条に違反しないということができる(同旨、東地判昭和四二年一〇月一八日、判例時報四九六号一五ページ以下)(編註、本誌二一一号二〇三頁掲載の判決)。(谷水央)